『インタラクティブ・ティーチング』の思い出(と、宣伝)
インタラクティブ・ティーチング―アクティブ・ラーニングを促す授業づくり
- 作者: 栗田佳代子,日本教育研究イノベーションセンター
- 出版社/メーカー: 河合出版
- 発売日: 2017/02
- メディア: 単行本
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徳島大学を(5ヶ月前に)退職しました
哲学史研究とイノベーション
来週、10月22日(木)から、徳島大学教養教育院(仮)設置準備室・講師の北岡和義先生が中心となった、「徳島大学イノベーションチャレンジ」(TIC)という教育プログラムがスタートします(TICのFacebookページはこちら。)。これに先立ち、15日(木)は、東京大学i.schoolより、エグゼクティブ・ディレクターの堀井秀之先生をお招きした、「第1回イノベーション教育講演会」が行われました。私は、TICの立ち上げにほんの微力ながら協力している縁もあり、スタッフ兼受講生のような形で、お話をお聞きすることができました。
ヘーゲル研究文献レビュー:Paul Redding, "Hegel and Peircean Abduction"
基本情報
著者:Paul Redding
タイトル:Hegel and Peircean Abduction
発表年:2003
媒体:European Journal of Philosophy 11:3, pp.295-313
要約
S. パースの「アブダクション」から説き起こし、カントからヘーゲルへと展開された判断と推論についての議論の中に、その源泉を見出す。その後、アリストテレスの伝統的論理学の枠組みを参照しつつカント、フィヒテ、ヘーゲル、そしてパースの議論についてより詳細な描像を提示する。さらに結論部では、以上の概念史な整理を元に、「知覚判断」の位置づけについて、ブランダムの推論主義やセラーズの「所与の神話」批判をも射程に収めつつ論じる。
コメント
著者は、アリストテレス、パース、カント、フィヒテ、ヘーゲルというどの一人をとっても一冊の本がかけるような大哲学者たちの議論を手際よく比較し、現代的な議論との結節点までをも見出す。まさに「縦横無尽」と言うべきエレガントな哲学史研究である。
気になる点としては、こうしたスタイルの論文では仕方のないことだが、ヘーゲルの文言を詳しく検討した箇所がないということである。しかし、これはこの論文の欠陥ではないだろう。私自身、博士論文の執筆を進める中で、「よい哲学史研究とはどのような研究か」という根源的な問いに再び直面しつつある。哲学史研究では、研究者ごとに少しずつ異なる解像度で過去の哲学者の議論に迫ることが、新たな対話の可能性を開く。これが哲学史研究の醍醐味だと言えるかもしれない。
Analytic Philosophy and the Return of Hegelian Thought (Modern European Philosophy)
- 作者: Paul Redding
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2007/09/13
- メディア: Kindle版
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FD関連文献レビュー:Joel Michael (2007), Faculty Perceptions About Bariiers to Active Learning
基本情報
- 著者:Joel Michael
- 発表年:2007
- タイトル:Faculty Perceptions About Bariiers to Active Learning
- 媒体:College Teaching, 55:2, 42-47, DOI: 10.3200/CTCH.55.2.42-47
要約
自身のワークショップで収集した質問票のデータをもとに、アクティブ・ラーニングを実施するうえで大学教員にとって何が「障壁」と考えられているのかを明快にまとめた論文。
著者は、アクティブ・ラーニングを実施するうえでの障壁を、以下の三つのカテゴリーに分けて整理している。
- 学生の特徴や貢献
- 教員に直接影響するような、教員の特徴や問題
- 学生の学びに影響するような教育学的問題
1は、「学生がアクティブ・ラーニングのやり方を知らない」等、学生に原因を求めるもの、2は「アクティブ・ラーニングの授業では教員によるコントロールがなされにくい」等、教員に原因を求めるもの、3は言葉の上では少々わかりにくいが、「クラスサイズがアクティブ・ラーニングに向かない」等、設備や制度に原因を求めるものである。
著者によれば、教員が感じる障壁には正しいものもあれば誤解もある。正しいものについては、それを取り除くための方法を、また誤解についてはそれを解くためのFD研修が有効である。ただし、研修の効果は限定的である。著者は、「入念な計画」、「高すぎない目標」、「授業の変化を継続させるためのサポートネットワークの構築」が重要だということを強調する。
コメント
短いながら、FD担当者にとって示唆に富んだ内容となっている。しかし、いくつか留意すべき点もある。
留意すべき点として、まず、「障壁」に関するデータは筆者がワークショップで29名の教員から収集したデータであり、バイアスがかかっている可能性は否定できない。また、筆者が提示する指針はこれまでのFD研修への反省から導き出された提案として理解されるべきものであり、手法としての有効性がデータに基づいて十分確証されたものではない。
これらの問題はあるものの、FD研修は常に特殊な教員の状況に合わせてカスタマイズしなければならないという性格を持つため、完全に客観的なデータではなくても、留保付きの参考データとしてこれらのデータを実践に活かすことは重要である。また筆者の提言についても、日本の、特に四国のような「FD先進地域」におけるFD研修は、浸透・定着しつつある一方で、頭打ち・マンネリ化の兆しもある。こうした状況に照らして、特に「授業の変化を継続させるためのサポートネットワークの構築」といった提案は、我々にとっても重点課題となりうるように思われる。
アクティブ・ラーニングの目的とは
私が所属する徳島大学は、大学教育再生加速プログラムのテーマI「アクティブ・ラーニング」の採択を受け、アクティブ・ラーニングの普及に取り組んでいます。こうした背景もあり、職務を行う中で、先生方にアクティブ・ラーニングをおすすめする、という機会が多々あります。
ところが、「アクティブ・ラーニング」という概念は、非常に「ゆるい」概念で、その定義も様々です。このため、実際に授業をされる先生方の中には、そのような、定義のはっきりしないものを推薦するなど無責任ではないか、と考えられる向きもあるのではないか、と危惧しています。(というか、私自身が学部の教員だったら、きっとそのような感想を抱くであろうと思います。)
その点、私がFDに関する教育をうけた東京大学フューチャー・ファカルティ・プログラムは、この概念の曖昧さに敏感で、かなり慎重に留保をつけながら、「アクティブ・ラーニング」の長所について語られていました。「アクティブ・ラーニング」に特化した回を担当された中原淳先生も、また、その他の回における栗田佳代子先生のお話の中でも、この概念がいわゆるバズワードとして「ゆるく」用いられているということへの注意が何度も喚起されていたことを覚えています。それでもなお、いわばこのフレーズの大流行を「利用」することで、大学での授業をよりよいものにしてゆくことは可能である、というのが、私がFFPで受け取ったメッセージであり、現在仕事をする際に考えていることでもあります。
アクティブ・ラーニングについては既に様々なことが語られていますが、このブログ記事でそれらのいちいちを紹介することはしません。その代わりに、ここでは、常日頃強調したいと考えているアクティブ・ラーニングの分類について、少し書いてみたいと思います。それは、「目的」による分類です。
アクティブ・ラーニングを活用することで、学生に対する「知識伝達」をする授業から脱して、いわゆる「汎用的技能」(コミュニケーション力や、自ら問いを見つけそれを解決するための力など)を身につけさせることができる、と言われることがあります。このような言説には、高校までの「受動的な学び」を脱して、大学では「能動的な学び=アクティブ・ラーニング」を実施すべきだ、といった主張が伴うこともあります。しかし私には、このような言説は、多少厳密さを欠いているように思えます。(ただし私は、アクティブ・ラーニングのメリットを、厳密さを多少犠牲にしてでも簡潔に示す必要がある場合には、このような言い方もある程度は許容されてよい、とも考えています。)
アクティブ・ラーニングの中には、たしかに、問題を発見・解決する力を身につけるために推奨されるべきものもあります。しかし、知識の伝達と定着のために役立つがゆえに推奨されるべきアクティブ・ラーニングもあるのではないでしょうか。また、このタイプのアクティブ・ラーニングは、大学独特のものであるよりむしろ、学生が高校までの授業で慣れ親しんでいるものなのではないでしょうか。
例を挙げて考えてみましょう。いわゆるPBL(ProjectであれProblemであれ)や、ラーニング・ポートフォリオを用いた授業など、大掛かりなアクティブ・ラーニングにおいては、学生には自ら問題を発見し、また自らの活動を振り返って自律的な学びを行うことが要求されます。このようなアクティブ・ラーニングにおいてはたしかに、問題を解決する力や、自らを律する力を身につけされることが可能でしょう。しかし、一般的な数人でのグループワークや、Think-Pair-Shareのような小型のワークは、どちらかというと、教員が伝えたい知識を定着させるために行われるのではないでしょうか。このようなワークでは、教員は、学生に「一人で回答するには難しいが、しかし答えのある問い」を投げかけ、学生もその決まった答えを考える、といった場面が少なくないでしょう。高校までの授業でも、例えば数学の問題をグループで解かせるような、あるいは、「調べ学習」のような仕方で、身に付けるべき知識に、生徒自らがたどり着けるよう促す、という仕方での「アクティブ・ラーニング」は多用されています。このような目的での「アクティブ・ラーニング」の典型例は、プラトン『メノン』におけるソクラテスの「授業」に求めることができるでしょう。
ここまでで、アクティブ・ラーニングには、問題解決力のような力を身につけさせるためのものと、より確実に知識を伝達し定着させるためのものの二つがある、ということを示せたことにしましょう。ここから得られる、教育実践の場面に関わる教訓は何でしょうか。それは、アクティブ・ラーニングを導入する際には、ただ導入しさえすればよいのではなく(「文部科学省対策」としてだけ考えればそれが許容されてしまうのですが)、それぞれのコースやコマの目的・目標を教員が自ら明確に把握した上で、そのためにどのような方法が有効化を考えて導入する必要がある、ということです。例えば専門基礎に多くある知識を伝達するための授業であれば、小型のワークを多数組み入れるという仕方でアクティブ・ラーニングを導入することが、学生の学びを促すことになります。これに対して、問題発見・解決能力のようなものを身につけさせたいのであれば、ときには大掛かりなワークにチャレンジすることも必要になるでしょう。目的に対応しない手段を選ぶことは、教員も学生もいたずらに疲弊するだけ、という結果につながりかねません。
まとめます。
- アクティブ・ラーニングには、知識伝達・定着に有効なものと、問題解決能力のような力を身につけさせるために有効なものの二つのタイプがある。
- アクティブ・ラーニングを導入する際には、授業の目的・目標に合った方法を適切に選択することが重要である。
これらのことを教員一人ひとりが明確に意識することで、いっときの流行や「文部科学省対応」で終わらない、真に学生に資するアクティブ・ラーニングが可能になる、と考えています。
- 作者: エリザベスバークレイ,クレアメジャー,パトリシアクロス,Elizabeth F. Barkley,Claire Howell Major,K.Patricia Cross,安永悟
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
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4月の活動記録
文章を書くスイッチが入ったので、続いて4月についても更新します。4月は3月と逆に、研究に軸足をおいた月になりました。業務の方は、就職して初めての新年度なので、なんとなくふるまい方を探りながらの月になりました。
研究に軸足を置いた、と書きましたが、5月の日本哲学会に向けた準備がこの月のメインの仕事でした。今週末に迫った日本哲学会では、ジョン・マクダウェルの「第二の自然」概念に関する口頭発表をする予定です。3月に続いて博論に関係ないこと喋ってる!ということにはなるのですが、その先の研究のことも考えながらバランスを取っている、つもりです。この発表の準備は終わったので、ここからは博論にシフトしていきます。
マクダウェルの発表は、実は2年前にイギリス哲学・哲学史研究会というところでお話した内容を下敷きに、結論部を大幅に書き換えたものです。当時から、マクダウェルの議論の整理のところはうまくいったものの、その先の批判的な検討のところはあまりうまくいっていないなと考えていました。その辺りを改めて考えなおしました。
私はヘーゲルを研究していますが、他方で物理主義にもシンパシーを感じています。まだ整理できていない検討課題ですが、この二つの立場の共通点はどちらも一元論を志向しているところにあるように思います。対極とすら思われそうな二つの立場なのですが、自分なりにその間をぬっていけたらいいなと思っています。もちろんその前に博士論文をまとめなければなりませんが…!
上記の発表のほか、大阪大学で開かれた超越論哲学に関する国際会議にも参加しました。およそ1年半ぶりくらいで英語を喋ったら全然喋れなくなっていて悲しかったのですが、内容はとても興味深い発表ばかりでした。ピピンの次の世代のヘーゲル研究を担っているRobert Stern教授と直接お話しできたのもよい機会でした。哲学研究については興味の近い方とお話できる機会がかなり減ってしまっているので、でいるだけこういったチャンスを活かしていかなければと感じています。
こう書くと業務をサボって研究ばかりしていたようですが、業務としては本年度の授業コンサルテーションをスタートさせたり、ナンバリングの実務が始動したりと、新年度に伴う仕事に着手しています。また、医学部保健学科でのワークショップでは、直接学生を指導する、普段あまりない機会を得ることが出来ました。今後、もう少し学生との接点を増やしてゆけるとよいのですが。
John McDowell (Key Contemporary Thinkers)
- 作者: Maximilian de Gaynesford
- 出版社/メーカー: Polity
- 発売日: 2004/08/13
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Classroom Observation: A guide to the effective observation of teaching and learning
- 作者: Matt O'Leary
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 2013/09/26
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