川瀬和也 研究ブログ

宮崎公立大学で教員をしています。専門は、(1)ヘーゲル、(2)行為の哲学(3)プラグマティズム。英語圏のいわゆる分析系のヘーゲル研究の成果を取り入れながら、ヘーゲルの議論の再構成を目指しています。主要著作:論文「ヘーゲル『大論理学』における絶対的理念と哲学の方法」で日本哲学会若手研究者奨励賞受賞。共著に『ヘーゲルと現代思想』(晃洋書房・2017年)ほか。お仕事のご依頼・ご質問はフォームへ→https://goo.gl/forms/klZ92omOgEvsjcCi1

FD関連文献レビュー:Joel Michael (2007), Faculty Perceptions About Bariiers to Active Learning

基本情報

  • 著者:Joel Michael
  • 発表年:2007
  • タイトル:Faculty Perceptions About Bariiers to Active Learning
  • 媒体:College Teaching, 55:2, 42-47, DOI: 10.3200/CTCH.55.2.42-47

 

要約

自身のワークショップで収集した質問票のデータをもとに、アクティブ・ラーニングを実施するうえで大学教員にとって何が「障壁」と考えられているのかを明快にまとめた論文。

 

著者は、アクティブ・ラーニングを実施するうえでの障壁を、以下の三つのカテゴリーに分けて整理している。

 

  • 学生の特徴や貢献
  • 教員に直接影響するような、教員の特徴や問題
  • 学生の学びに影響するような教育学的問題

 

1は、「学生がアクティブ・ラーニングのやり方を知らない」等、学生に原因を求めるもの、2は「アクティブ・ラーニングの授業では教員によるコントロールがなされにくい」等、教員に原因を求めるもの、3は言葉の上では少々わかりにくいが、「クラスサイズがアクティブ・ラーニングに向かない」等、設備や制度に原因を求めるものである。

 

著者によれば、教員が感じる障壁には正しいものもあれば誤解もある。正しいものについては、それを取り除くための方法を、また誤解についてはそれを解くためのFD研修が有効である。ただし、研修の効果は限定的である。著者は、「入念な計画」、「高すぎない目標」、「授業の変化を継続させるためのサポートネットワークの構築」が重要だということを強調する。

 

コメント

短いながら、FD担当者にとって示唆に富んだ内容となっている。しかし、いくつか留意すべき点もある。

 

留意すべき点として、まず、「障壁」に関するデータは筆者がワークショップで29名の教員から収集したデータであり、バイアスがかかっている可能性は否定できない。また、筆者が提示する指針はこれまでのFD研修への反省から導き出された提案として理解されるべきものであり、手法としての有効性がデータに基づいて十分確証されたものではない。

 

これらの問題はあるものの、FD研修は常に特殊な教員の状況に合わせてカスタマイズしなければならないという性格を持つため、完全に客観的なデータではなくても、留保付きの参考データとしてこれらのデータを実践に活かすことは重要である。また筆者の提言についても、日本の、特に四国のような「FD先進地域」におけるFD研修は、浸透・定着しつつある一方で、頭打ち・マンネリ化の兆しもある。こうした状況に照らして、特に「授業の変化を継続させるためのサポートネットワークの構築」といった提案は、我々にとっても重点課題となりうるように思われる。