川瀬和也 研究ブログ

宮崎公立大学で教員をしています。専門は、(1)ヘーゲル、(2)行為の哲学(3)プラグマティズム。英語圏のいわゆる分析系のヘーゲル研究の成果を取り入れながら、ヘーゲルの議論の再構成を目指しています。主要著作:論文「ヘーゲル『大論理学』における絶対的理念と哲学の方法」で日本哲学会若手研究者奨励賞受賞。共著に『ヘーゲルと現代思想』(晃洋書房・2017年)ほか。お仕事のご依頼・ご質問はフォームへ→https://goo.gl/forms/klZ92omOgEvsjcCi1

『インタラクティブ・ティーチング』の思い出(と、宣伝)

書籍『インタラクティブ・ティーチング:アクティブ・ラーニングを促す授業づくり』が、去る2月に河合出版より発売されました。私は第3章「学習の科学」を執筆しました。
 
インタラクティブ・ティーチング―アクティブ・ラーニングを促す授業づくり

インタラクティブ・ティーチング―アクティブ・ラーニングを促す授業づくり

 

 

この書籍のもとになったのが、JMOOCs講座「インタラクティブ・ティーチング」です。この講座の内容は現在は「東大FD」のwebサイト上で公開され、書籍と合わせて視聴することができるようになっています。
 
 
さて、書籍の宣伝もかねて、私自身も携わっていたこちらのプロジェクトについて、少し思い出話をしてみたいと思います。
 
インタラクティブ・ティーチング」はプラットフォーム"gacco"を利用して運営・公開されていた、インターネット上で受講する講義です。MOOCsについて詳しくは他のサイトを参照していただければと思いますが、ざっくり言うと映像コンテンツを視聴し、関連する小テストやレポート課題に取り組んで合格すれば履修証が発行されるというものです。インタラクティブ・ティーチングは東京大学・大学総合教育研究センター(大総センター)と日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)の共同開発によるプロジェクトで、東大からは中原淳先生・栗田佳代子先生が開発の中心メンバーとして参加されました。
 
さて、私は2014年の4月から11月にかけて、大学総合教育研究センターの教育課程・方法開発部門に特任研究員として勤務しており、プロジェクトの立ち上げと、映像コンテンツの作成に携わっていました。と言っても、私のメインの仕事は同部門も当時のもう一つの主要プロジェクト、東京大学フューチャー・ファカルティ・プログラム(東大FFP)の運営・広報でしたので、インタラクティブ・ティーチングについては教材の一部を担当する等、後方支援に近い形で携わりました。たとえば、教材中にあまり出来の良くないレポート課題を採点するワークが含まれていますが、このレポートの例を作成したことを覚えています。
 
当時、プロジェクト全体の進行を統括・管理されていたのは当時同センターにいらした小原優貴さん(現・東京大学大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構 特任准教授)、広報の中心となり、書籍にも収録されているストーリー・セッションの開発にも関わられていたのが、現在も同センターで特任研究員をされている山辺恵理子さんです。
 
このプロジェクトで印象に残っているのは、なんといってもそのスピード感です。映像をご覧になった方は、実際の大学院生を前に講義をする栗田先生の姿を覚えていらっしゃると思いますが、この、生徒役の大学院生を前に授業をするスタイルも初めから決まっていたわけではなく、私が4月に着任してからアイディアが出され、実現されたものでした。どんどん新しいアイディアが生み出され、よいものは着実に実行に移されていく、その様子に感銘を受けました。(もちろん、実際に渦中にいた身ですので、のんきに感銘を受けてばかりはいられませんでしたが。)このスピード感ある職場で仕事の進め方を学べたことは、徳島大学時代も、現在の宮崎公立大学でも、私にとって大きな財産となっています。
 
インタラクティブ・ティーチングの映像を含む教材と書籍は、東大FFPで行っていた将来教員となる大学院生向けの授業の作り方についての授業、また、新任教員向けの授業の作り方についての講座の内容を概ね反映して作られています。ただ、提示順序については、大学教員以外の教育に興味を持つ方々にもわかりやすいよう、シラバスの書き方など大学特有の事項は後半に回され、アクティブ・ラーニングなどより広い「学びの場」で活用できる手法や知識の紹介を前半に置く工夫がなされています。大学以外で教えている皆さんは、大学との違いを考えてみるのもおもしろいかもしれません。
 
大学での授業を担当することになったらまず読むべき本としては、これまでも『大学教員準備講座』(夏目達也ほか著、名古屋大学出版会)や、『大学教員のための授業方法とデザイン』(佐藤浩章著、玉川大学出版部)がありました。また、既にある程度の教授法を身に着けている教員が必要に応じて読むべき本としては、『協同学習の技法』(デイビスほか著、ナカニシヤ出版)や、『大学教員のためのルーブリック評価入門』(スティーブンスほか著、玉川大学出版部)、『大学における「学びの場」づくり』(アンブローズほか著、玉川大学出版部)があります。
 
自画自賛するようではありますが、『インタラクティブ・ティーチング』は、これら両方の長所を備えた本だと言えます。授業づくりに関する知識はまだ全く無いという大学院生の方にも、また、すでに授業にある程度の自身を持っている先生方にも、基本を確認しながら、自ら授業づくりについてより高いレベルで学びつづけるための橋渡しができる本になっているはずです。ぜひご笑覧いただければと思います。