川瀬和也 研究ブログ

宮崎公立大学で教員をしています。専門は、(1)ヘーゲル、(2)行為の哲学(3)プラグマティズム。英語圏のいわゆる分析系のヘーゲル研究の成果を取り入れながら、ヘーゲルの議論の再構成を目指しています。主要著作:論文「ヘーゲル『大論理学』における絶対的理念と哲学の方法」で日本哲学会若手研究者奨励賞受賞。共著に『ヘーゲルと現代思想』(晃洋書房・2017年)ほか。お仕事のご依頼・ご質問はフォームへ→https://goo.gl/forms/klZ92omOgEvsjcCi1

ヘーゲル研究文献レビュー:Paul Redding, "Hegel and Peircean Abduction"

基本情報

著者:Paul Redding

タイトル:Hegel and Peircean Abduction

発表年:2003

媒体:European Journal of Philosophy 11:3, pp.295-313

 

要約

S. パースの「アブダクション」から説き起こし、カントからヘーゲルへと展開された判断と推論についての議論の中に、その源泉を見出す。その後、アリストテレスの伝統的論理学の枠組みを参照しつつカント、フィヒテヘーゲル、そしてパースの議論についてより詳細な描像を提示する。さらに結論部では、以上の概念史な整理を元に、「知覚判断」の位置づけについて、ブランダムの推論主義やセラーズの「所与の神話」批判をも射程に収めつつ論じる。

 

コメント

著者は、アリストテレス、パース、カント、フィヒテヘーゲルというどの一人をとっても一冊の本がかけるような大哲学者たちの議論を手際よく比較し、現代的な議論との結節点までをも見出す。まさに「縦横無尽」と言うべきエレガントな哲学史研究である。

 

気になる点としては、こうしたスタイルの論文では仕方のないことだが、ヘーゲルの文言を詳しく検討した箇所がないということである。しかし、これはこの論文の欠陥ではないだろう。私自身、博士論文の執筆を進める中で、「よい哲学史研究とはどのような研究か」という根源的な問いに再び直面しつつある。哲学史研究では、研究者ごとに少しずつ異なる解像度で過去の哲学者の議論に迫ることが、新たな対話の可能性を開く。これが哲学史研究の醍醐味だと言えるかもしれない。

 

 

ヘーゲル 論理の学 第三巻 概念論

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Analytic Philosophy and the Return of Hegelian Thought (Modern European Philosophy)

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