川瀬和也 研究ブログ

宮崎公立大学で教員をしています。専門は、(1)ヘーゲル、(2)行為の哲学(3)プラグマティズム。英語圏のいわゆる分析系のヘーゲル研究の成果を取り入れながら、ヘーゲルの議論の再構成を目指しています。主要著作:論文「ヘーゲル『大論理学』における絶対的理念と哲学の方法」で日本哲学会若手研究者奨励賞受賞。共著に『ヘーゲルと現代思想』(晃洋書房・2017年)ほか。お仕事のご依頼・ご質問はフォームへ→https://goo.gl/forms/klZ92omOgEvsjcCi1

ツイートになり損ねたメモたち

" data-en-clipboard="true">ここ数ヶ月、メディアとしてのTwitterの使い方を模索してみたが、やはりどうしてもコスパが悪いというか、気が散ったり気を遣ったりするマイナスの方が大きくなってしまう。まあ私の意志が弱いだけではあるが。自分がやりたいこ…

大学からの学び・大人の学びと読書

高校までは「勉強」と言えば、授業を受けたり、動画を見たり、問題を解いて反復練習をすることでしょう。しかし大学の学びや大人の学びでは、本を読むことが「勉強」において最も重要な活動になります。なぜでしょうか。この記事では、これについて考えてみ…

『ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力』(光文社新書)で目指したこと

昨日、拙著『ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力』(光文社新書)が発売されました。「これからのビジネスに必要なのは哲学だ」という力強いコピーも(このコピーは私が直接考えた者ではありませんが)つけていただき、大変ありがたいのですが、逆に、川瀬は急に…

大学での対面授業を再開すべきでない7つの理由

昨年度、多くの大学で対面授業が禁止され、オンラインでの授業が実施された。感染対策には一定の効果があったのではないかと思うが、キャンパスライフが送れないという学生からの不満もあった。ニュースやインターネット上でも議論が起こっていたため、ご存…

読書会における「グラウンドルール」の重要さ

哲学を学ぶ最も効果的で楽しい方法に、読書会を開催することがある。私も多くのことを読書会から学んだ。しかし、読書会はときには失敗してしまうこともある。だんだんと参加者のモチベーションが下がるのがわかるようになり、一人、また一人と集まらなくな…

哲学書はなぜ間違いだらけでなければならないのか

図書館や書店で哲学書の棚の前に立つと、不思議な気持ちになることがある。ここにこれだけたくさんの本があるけれど、ここに書かれていることはほとんどが間違っている。同じテーマについて書かれた、何千円もする重厚な専門書を2冊選んで手に取ってみる。す…

個をないがしろにしない全体論は可能か——『全体論と一元論』というタイトルについて

" data-en-clipboard="true">私の単著『全体論と一元論——ヘーゲル哲学体系の核心』が、今月末に公刊されます。 " data-en-clipboard="true"> 全体論と一元論―ヘーゲル哲学体系の核心―― 作者:川瀬 和也 発売日: 2021/03/25 メディア: 単行本 「買ってください…

フランクファートの根源的洞察

最近はフランクファートの自律論に集中的に取り組んでいるが、ここにはフィヒテ的な反省の問題との興味深い類似があるように思う。 フランクファートにとっての中心的な問題に、欲求のような心的態度が「私のものである」とはどういうことか、というものがあ…

急がば回れ。遠隔授業のために授業設計の基本を学び直そう

2020年5月現在、最も多くの大学教員を最も悩ませているのは、遠隔授業への対応でしょう。Zoomの使い方、LSMの使い方、映像編集の仕方など、ICTの活用法にも注目が集まっています。 しかし、これらを使いこなすために最も重要なのは、授業デザインの基本に立…

『精神現象学』、どこから読むか?(ヘーゲル(再)入門ツアー2019-2020 予稿)

ヘーゲル(再)入門ツアー『精神現象学』編の開催まであと1週間。この記事では、なかなかとっつきにくい『精神現象学』をどこから読み始めるのがよいかについて書いてみたいと思います。 ①「序論(Vorrede)」から読む 本の最初から素直に読み始めるのがこのパ…

哲学に入門するための最短コース

哲学の入門書は様々にありますが、どれから読んでいいのかわからないという方も多いでしょう。この記事では、学問としての哲学に入門するための「最短コース」を私なりに提示してみます。 ここで「最短コース」というのには二つの意味があります。一つは、最…

「web上で読める哲学系ブックリスト」のリスト

web上で読めるブックリストは、独学する際の重要な指針となってくれます。しかし、様々な媒体でバラバラに公開されているため、存在に気づくことがなかなか難しいという難点があります。そこで、ここでは、自分用の備忘録も兼ねて、web上で見つけた哲学系の…

ヘーゲル(再)入門ツアーへのあとがき

ヘーゲル(再)入門ツアー、予想を上回る多くの方々にご参加いただき、誠にありがとうございました。いただいたご質問やその後インターネット等に書いていただいたご感想等、ありがたく拝読しております。この記事では、さらに学びたい人のための文献紹介と…

金杉武司『心の哲学入門』第3章における「表象内容の目的論的説明」への疑問

金杉武司『心の哲学入門』(勁草書房、2007年)は、心の哲学を学びたい人のみならず、哲学を学びたい人に真っ先にすすめたい本の一つです。発行から10年を経て少し古くなってきたところもありますが、まだまだ現役で通用する本でしょう。 心の哲学入門 作者:…

ヘーゲル入門は『歴史哲学講義』から?

ヘーゲル(再)入門ツアー東京編の開催まで2週間を切りました。宣伝を兼ねて、ヘーゲル入門に関する記事を追加したいと思います。 「ヘーゲル哲学に入門するには、まずは岩波文庫にもある『歴史哲学講義』から」。哲学史の入門書や、インターネット上の哲学…

ヘーゲルと観念論(ヘーゲル(再)入門ツアー・予稿その2)

前回の記事で、「正反合」や歴史の目的論だけがヘーゲル哲学ではない、ということをお話ししました。 kkawasee.hatenablog.com では、ヘーゲル理論哲学とは一体何なのか、というのがこの記事のテーマです。 ヘーゲルには方法論しかない? 「弁証法」があまり…

ヘーゲルと弁証法(ヘーゲル(再)入門ツアー・予稿)

ヘーゲル(再)入門ツアーに向けて、ブレストと宣伝を兼ねて、(できればこの先もシリーズで)記事を書いてみたいと思います。 ヘーゲルは「正反合」と言ったか? 高校倫理などの初級の哲学史では、哲学者はキャッチフレーズとともに教えられます。デカルト…

教科書としての哲学系新書レビュー

私は、新書レベルの本を学生に自ら読み進めさせ、それを通じて学習させる科目として、「現代哲学」と「哲学史」を担当しています。LTD話し合い学習法をアレンジした主要、毎学期新書2冊を読み切るペースで授業しています。そこで教科書として使った哲学系新…

「LTD話し合い学習法」のアレンジ事例の共有

「LTD話し合い学習法」について LTD「話し合い学習法」と呼ばれる学習法があります。私の授業では、これをアレンジした手法を「ディスカッション学習」と勝手に呼んで実施しています。この記事では、この手法について事例を共有したいと思います。 「LTD話し…

書評:飯田洋介『ビスマルク』(中公新書, 2015年)

ビスマルクの評伝。近年、堅めの評伝型の新書が多く出ているが、本書は、ドイツ統一の立役者ビスマルクの生涯を扱った一冊である。専門外の新書なので専門家としての批評はできないが、ヘーゲル研究者の視点からみた魅力を記事にしてみる。 本書の面白さは、…

ヘーゲル論理学に分け入る5冊

ヘーゲル研究者で、論理学の重要性を否定する者はいません。しかし、その重要性に比して、ヘーゲル論理学を学ぶ者がよりどころとできる本は驚くほど少ないのが実情です。そこでこの記事では、入門書にこだわらず、少し専門的なものも含めて、ヘーゲル論理学…

ヘーゲルの主要著作、どの訳で読む?

ヘーゲルの著作は出版の事情も複雑で、読む前にこれを整理して押さえるだけでも一苦労です。しかも訳書も複数あり、比較して選択しなければなりません。この記事では、『精神現象学』と『大論理学』に絞って、邦訳を比較していきます。 0.基礎知識 ヘーゲル…

書評:『ワードマップ現代現象学』(新曜社、2017年)

「現象学は、私たちの経験の探求です」と導入される本書は、フッサールからハイデガーを経てメルロ-ポンティやレヴィナスに至る、という旧来の「現象学入門」のスタイルからは大きく逸脱している。目次を眺めればわかるとおり、志向性、存在、価値、芸術等々…

ヘーゲルに挫折しないための5冊

西洋哲学史のなかでもトップクラスのとっつきにくさで知られるヘーゲル。この記事では、ヘーゲル哲学を学ぶための入り口を提案します。この夏、新たな挑戦としてヘーゲルに入門してみてはいかがでしょうか。 1.ヘーゲル哲学入門の難しさ 西洋哲学に興味のあ…

反転授業で学生に初回から予習してもらう工夫

講義内容をビデオ教材で予習させ、授業時間中には演習を行う「反転授業」。この授業形式の問題点として、学生が初めのうちは予習をしてこない、ということが挙げられます。これは映像コンテンツを用いた反転授業に限らず、予習を要求する授業全てに言えるこ…

初回授業とアイスブレイク

私が勤務する宮崎公立大学では、来週月曜から新学期の授業が始まります。多くの教員の新学期は、この初回授業の準備とともに始まります。 この初回の授業の計画にあたって、何から手を付ければよいのでしょうか。もちろん書籍などを当たればよりきちんとした…

『インタラクティブ・ティーチング』の思い出(と、宣伝)

書籍『インタラクティブ・ティーチング:アクティブ・ラーニングを促す授業づくり』が、去る2月に河合出版より発売されました。私は第3章「学習の科学」を執筆しました。 インタラクティブ・ティーチング―アクティブ・ラーニングを促す授業づくり 作者: 栗…

徳島大学を(5ヶ月前に)退職しました

既に5ヶ月が経過してしまいましたが、昨年度いっぱいで、約1年半にわたってお世話になった徳島大学を退職し、4月から宮崎公立大学に助教として赴任いたしました。 わざわざ「退職しました」というタイトルにしたのは、よくIT系の方が書いている「退職エン…

哲学史研究とイノベーション

来週、10月22日(木)から、徳島大学教養教育院(仮)設置準備室・講師の北岡和義先生が中心となった、「徳島大学イノベーションチャレンジ」(TIC)という教育プログラムがスタートします(TICのFacebookページはこちら。)。これに先立ち、15日(木)は、…

ヘーゲル研究文献レビュー:Paul Redding, "Hegel and Peircean Abduction"

基本情報 著者:Paul Redding タイトル:Hegel and Peircean Abduction 発表年:2003 媒体:European Journal of Philosophy 11:3, pp.295-313 要約 S. パースの「アブダクション」から説き起こし、カントからヘーゲルへと展開された判断と推論についての議…